1.女性合格者3割突破、法曹界のジェンダー変革に期待
法曹界は一見、実力主義が貫かれる平等な世界に映るかもしれませんが、実際には女性にとっていくつかの大きな壁が存在し続けてきました。日本社会には依然として、女性が育児や家事を担うことを期待する伝統的な価値観が根強く、これが女性にとって、そもそも難関である司法試験に挑むためのハードルを高めてきたと考えられます。さらに、実際に法曹となった後も、重責を伴う過酷な職務と子育ての両立は容易ではなく、男性と同じようにキャリアを築こうとする際には、女性に過剰な負担がのしかかる現実があります。また、身近に女性裁判官や弁護士といったロールモデルが少ないことも、若い女性が法曹を志す上で心理的ハードルとなっていたと言えるでしょう。
こうした中、今年の司法試験では、女性の合格者が30.21%に達し、初めて3割を超えたことが法務省のデータにより確認されました。これは単なる数値上の変化にとどまらず、法曹界におけるジェンダーのバランスが大きく変わり始める兆しを示す出来事です。この変化を読み解く鍵となるのは「クリティカルマス」という概念です。
2.クリティカルマスとは何か
クリティカルマスとは、特定の構成比率を超えることで、少数派が社会的に影響力を発揮し始める割合を指し、一般的に30%がその臨界点とされています。この割合を超えると少数派の声が無視されにくくなり、組織や社会の意思決定に本格的な影響を与えるようになるとされます。クリティカルマスの考え方では、10%や20%でも一定の影響はありますが、30%を超えると影響力が格段に強まり「勢力」として認識され、文化や制度の変革が進みやすくなると考えられます。今年の司法試験で女性合格者が3割に達したことは、法曹界において女性がクリティカルマスに到達したことを意味し、これにより、法曹界でも女性の視点が反映され、多様な価値観が組織に取り入れられることが期待されます。
(参照:「女性の経済的エンパワメント・各国の取組(6)女性取締役を3割超に」,内閣府男女平等参画局「共同参画」2016年10月号 https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2016/201610/201610_07.html)
3.鎌倉フェローシップ:女性への奨学金給付率7割を維持
鎌倉フェローシップでは、法科大学院生への奨学金給付を通じて、法を学ぶ若者がジェンダー平等や社会課題への意識を高め、権利を守る力を身につけられるよう支援を続けてきました。20年間の奨学金給付における女性への支援率は7割を超えています。その意味でも今年、女性の司法試験合格者が増えたことは当団体にとっても非常に意義深い成果なのです。女性合格者が3割を超えたことで、法曹を目指す女性が当たり前の存在として認識される一方、ジェンダー平等を推進する特別支援が議論の対象になる可能性もあります。しかし、法曹界の多様性を促進し、社会に貢献する人材を育成するためには重要な過程です。法と社会の進歩、多様性の促進が経済と民主主義の発展に寄与し、持続可能な国家発展に貢献することを期待します。
沖縄県弁護士会によれば、同会における女性会員の割合は、2021年1月31日時点で約14%(40名)であり、全国平均の19%を下回っているとともに、女性会員を含め多様な会員が会務において障壁なく参加できる環境の整備についてはいまだ課題が残されているといいます。同会は、2020年7月22日の定期総会で、男女共同参画の取組みを発展・強化させることをめざし「男女共同参画を推進する宣言」を採択しています。
(出典:「沖縄弁護士会男女共同参画基本計画」, 沖縄弁護士会, 2021)
4.RBGが問い続けた“真のジェンダー平等”社会とは
「RBG」の愛称で知られたルース・ベイダー・ギンズバーグ氏。1993年、女性として史上2人目の連邦最高裁判事に指名され、2020年に亡くなる直前まで女性の権利のために闘い続けました。その姿は“最強の女性判事”と言われています。
ギンズバーグの氏はこのような言葉を残しています。
"when I'm sometimes asked when will there be enough [women on the supreme court]? And I say when there are 9, people are shocked. But there'd been 9 men, and nobody's ever raised a question about that."
「最高裁に女性判事は何人いれば十分か?」と尋ねられることがあります。私が「9人」と答えるとみんな驚きます。でも、判事9人全員が男性だったときには、誰もそのことを疑問に思わなかったではないですか。(筆者訳)
ギンズバーグ氏の描くジェンダー平等は、単に女性が3割、あるいは半数を占めるという段階を超え、「9人」すなわち最高裁判事全員が女性であったとしても誰も疑問を持たないときにこそ、社会が真に平等に到達すると考えていたのでしょう。
ギンズバーグ氏の求めた真のジェンダー平等にはまだ遠い道のりがありますが、今年、司法試験合格者の女性の数が3割を超えたという「クリティカルマス」の達成が、法曹界、そして社会に変革を起こす一歩となることを期待しています。弊団体もその力を後押しするべく、引き続き多様性ある社会の実現を目指し、微力ながら活動を続けてまいります。
改めて、今年度司法試験合格者の皆さまに、心より祝意を申し上げます。
(参照:
Jill Filipovic, Justice Ginsburg's distant dream of an all-female supreme court, 英・ガーディアン紙, 2012年11月30日,https://www.theguardian.com/commentisfree/2012/nov/30/justice-ginsburg-all-female-supreme-court
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